2015年5月22日金曜日

NHKドラマ「64」の放送終了に寄せて(原作との相違点とその理由)

NHKドラマの「64」(全5話)が先日終了しました。
面白かったので、原作(横山秀夫さん著)も読んでみました。

◆原作との違い
基本的には「原作をできるだけ活かす形」になっています。
登場人物も構成も台詞も、ほぼ忠実に再現されていました。
大きく異なっていると思われた箇所は以下の通りです。

◇歴代の刑事部長は登場させない
原作では、尾坂部、大館など、既に引退した歴代の刑事部長達が登場します。
三上は「幸田メモ」「長官視察の目的」を追い求めて、彼らの自宅を訪問し、
そのやりとりを通じて「自分のやるべきこと」を見つめ直していきます。
しかし、ドラマでは、この辺りの描写が一切ありません。
その代わりに「刑事は世の中で一番楽な仕事」などの名言を吐き、
三上をリードする尾坂部の役割は、捜査一課長の松岡に負わせています。
※死の床から電話をかけ、三上の迷いを断ち切る大館の役割もおそらく分散させているかと。
<考えられる理由>
・登場人物がただでさえ多く、これ以上増やすと混乱するため
 ※刑事部長は現職の荒木田だけで十分。
・刑事部全員が敵に回る中、三上の唯一の理解者は捜査一課長の松岡だけ
 というように登場人物が担う「役割」を徹底させるため

◇刑事部の報復は最小限にとどめる
原作では「刑事部長の召し上げ」という警務部・本庁のやり方に対し、
・留置管理係が女性留置人にわいせつ行為を働いていたこと
・留置管理係が居眠りをしていた隙に留置人が自殺してしまったことなど
刑事部は「警務部のミスをマスコミにリークする」というやり方で報復を試みています。
これに対し、ドラマではこの部分はすべてカットされています。
刑事部の報復行為は「誘拐事件の情報を出し惜しみする」というやり方に集約されています。
<考えられる理由>
・「留置管理」は一般の視聴者にはなじみが薄いため
・刑事部の抵抗を複数のやり方で分散させると、かえって意図が伝わりにくいため

◇登場人物の過去をあえて伝えない
原作では、三上が広報官になった経緯、
更に三上と二渡の不仲の理由、美那子とのなれ初めなど、
「バックグラウンド」がかなり丁寧に描かれていますが、
ドラマではすべてカットされています。
<考えられる理由>
・尺が足りないため。
・時間軸をこれ以上混乱させないため。
 ドラマは、平成14年と誘拐事件のあった昭和64年をいったりきたりしています。
 これ以上、過去のエピソードを盛り込むと、今が一体いつの話なのか、
 視聴者が混乱する恐れがあったため、やむなく削ったのだと思われます。
※唯一、バックグラウンドとして残したのは、「あゆみが家を出て行った経緯」のみ。

◇記者会見の場を特に強調している
D県警は誘拐事件(平成14年の方)発生後、報道協定のもと記者会見を開催します。
記者会見を仕切る三上達、広報部のメンバーは
記者達に誘拐事件の報道を差し控えさせる代わりに、
刑事部の捜査状況を事細かく教えなければならないのですが、
刑事部は以下のような嫌がらせに出ます。
・記者会見をキャリアの浅い捜査二課長にやらせる
 (本来刑事部長か捜査一課長がやるべきもの)
・情報を出し惜しみする(できるだけ小出しにする)
もちろん、記者達は納得がいきません。
「お前じゃ話にならん」と上層部を呼び出すように促し、
それができないと分かると、お飾りの捜査二課長に対して
「もっと詳しく」「今すぐ聞いてきて」などと煽って
その都度、会議場と捜査室を行ったり来たりさせるという「いじめ」に出ます。
徐々に疲弊していく捜査二課長と広報部の面々達。
苛立ちを増していく記者達。
やがて、暴動が起こり、その結果、
三上はやむなく「一課長を連れてくる」と約束させられることとなります。
この件は原作では293頁~316頁、わずか23頁という分量にすぎませんが、
ドラマでは第4話の大半(約40分)を費やす徹底ぶりです。
<考えられる理由>
・広報の存在意義を分かりやすく伝えるため
警察組織内における広報部の存在意義は「記者対策」に集約されますが、
小説では文章を手厚くしてその実態を伝えることが可能ですが、
映像メインのドラマではそうはいきません。説明臭くなってしまいます。
「映像としてどうやって伝えるか・魅せるか」
おそらく、ドラマの制作者の方々はその部分を悩み抜き、
その上で「この記者会見こそ見せ場だ」と思ったのだと思います。
この後、記者会見を抜け出した三上は
記者会見で頑張る広報部のメンバーのために、
また「うちのD県警が舐められるのは悔しい」と言ってくれる記者クラブの面々のために
「松岡に名前をリークするよう詰め寄る」「捜査式車に乗り込んで広報実況する」
という組織の構成員として考えられないような行動に出ます。
こういった考えられないような行動をとらせるためにも、
「大勢の記者達を前に、なすすべなく打ちのめされる」
というこの記者会見シーンを厚くする必要があったのだと思います。

◆追記
・制作したのは、以前、同局・同原作者の「クライマーズ・ハイ」を制作したのと同じチーム。
・音楽を手掛けたのは、あまちゃんの音楽も手掛けた大友良英さん。
※冒頭の「ぎゅいーん」という効果音が素晴らしかったです
・脚本は「クライマーズ・ハイ」も手掛けている大森寿美男さん。
・「64」はドラマ化に続き、2016年には2部作として映画化予定
http://www.cinra.net/news/20150326-rokuyon
 キャストがすごいです。佐藤浩市、綾野剛、榮倉奈々、瑛太、三浦友和、永瀬正敏、吉岡秀隆、仲村トオル、椎名桔平、滝藤賢一、奥田瑛二、夏川結衣、緒形直人、窪田正孝(敬称略)
※秋山役を兄弟で演じ分け!(ドラマは永山絢斗さん、映画は瑛太さん)

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