<あらすじ>
夏休みを境に、いじめられっ子になってしまった中学生・蓮見。万引きを強要されたり、みんなの前で自慰行為を強制されたり、同級生の売春の手伝いをさせられたり、憧れの女生徒をレイプされてしまったり、いじめは徐々に苛烈さを増していく。唯一の心のよりどころは、伝説の歌姫「リリィ」の歌を聴くこと。リリィのファンサイトで、リリィの素晴らしさを語り合う事。ある時、蓮見はファンサイトで知り合った人と、ライブ会場で会う約束をして出かけて行く。そこで事件が起こる。
<多分ここが面白いところ>
・加害者と被害者、二人とも同じ歌を愛している
いじめられっ子の蓮見と、いじめっ子の星野は、夏休み前までは友達でした。家に泊まりにいったり、旅行に行くくほどの仲でした。そして、二人とも「リリィ」が好きでした。考えてみれば当たり前のことですが、どんな人間にも好きな歌ぐらいあります。殺人犯もテロリストも、歌ぐらい聞きます。加害者も被害者も、同じ歌を口ずさみながら、人を傷つけたり、傷つけられたりしているわけです。これは人間は立場は異なっても、善悪を越えて、同じ「孤独・絶望を抱えている」ということを端的に表していると思います。同時に「安全地帯などどこにもない」「いつやられるか分からない」「やらなければやられる」という過酷な状況におかれた中学生達の厳しい現実を上手く表現していると思います。
・ハンドルネームという匿名性が上手く使われている
全編を通じて、ネットへの書き込みが画面を支配しています。「フィリア」「青猫」などのハンドルネームが使われており、おそらく、劇中の中学生の誰かがあてはまるのだと思いますが、誰が誰なのかよく分かりません。もちろん、意図的な伏線で、これがラストシーン(ライブ会場)での蓮見の凶行につながっていくのですが、匿名性を上手く利用した作りになっています。
・みんな幼い、そして初々しい!
主人公の蓮見を演じるのは市原隼人さん(当時13歳)。敵役の星野を演じるのは忍成修吾さん。そして、ヒロインには、蒼井優さんと伊藤歩さん。。今見返してみると、豪華な顔ぶれですね。もちろん当時は無名で、全員、オーディションで合格したそうです。おそらく岩井監督の目論見なのでしょうが、「演じている」という感じはほとんどありません。ただ、そこにいる、そこにいて起こったことに反応している、という感じです。それがこの年代の少年少女らしく、新鮮に感じられました。
<印象的なシーン>
劇中には、津田詩織と久野陽子、二人のヒロインが登場します。その対比がとても明確に描かれており、印象に残りました。
津田詩織は、星野に弱みを握られ、中年男性を相手に売春を強要されています。男がみんな客に見えてきて、同級生から告白されても、素直に喜ぶこともできません。蓮見に「デブになったら売春なんてしなくて済むかな」と嘆くのですが、そこまでやる覚悟はありません。何となく、流されるように生きています。
一方、蓮見の憧れの同級生・久野陽子は、とても強い女性として描かれています。才色兼備故に同性から嫉妬され、いじめを受けていますが、物怖じすることもありません。同じく優等生でありながら脱落した星野にとって、その「眩しさ」は許せるものではありません。ある時、星野の指示により、レイプされてしまいます。しかし、久野は怯むことなく、その翌日、頭を丸坊主にして学校に登校してきます。この「丸坊主具合」がすごいのです。自分でバリカンで剃ったのが明らかなのです(カツラではなく、本当に剃ったそうです)。
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