<あらすじ>
いるはずのない「兄と父を探せ」という不可解な遺言を残して亡くなる母親。戸惑いつつも、母の故郷レバノンに出かけ、その過去を探りはじめる双子の姉弟。徐々に、宗教紛争に巻き込まれ、過酷な運命に翻弄された母親の姿が明らかになっていく。
<多分ここが面白いところ>
・結末だけ取り上げるなら、およそ救いようのない話です。これを「ヒューマン映画」として真正面から作っていたら、多分、陰惨・悲惨すぎて物語になりえなかったと思います。ドゥニ・ビルヌーブ監督は、主軸を少しずらして、これをサスペンス映画に仕立てました。観客は、子どもの視点になって「母親が抱えた秘密」を一緒に探し、そして、それが明かされた時、子どもと一緒になってショックを受ける、そういうスリリングな体験が可能です。重たい映画なのに楽しめるように作っている。その手法に脱帽です。
・映画はレバノン内戦を題材にした話です。おそらく、民族、宗教など複雑な要因があって、血で血を争う殺し合いが行われたのだと思いますが、それらについて語られることは一切ありません。ちょっとは説明があっても…と序盤は思っていたのですが、そのうち、どうでもよくなりました。要するに「憎しみに憎しみで対抗しようとした結果、ひどいことになる。肝心なのは許すことなのだ」ということが分かればいいのだと思います。これは戦争を描いた映画ではないので。余分なものは極限まで切り落とす。勉強になります。
・母親がなぜ、「兄と父を探せ」と言ったのか。その謎はラスト10分で明かされます。本当に、キレイに、スカっと(内容は陰惨ですが)明かされます。しかも、サスペンスだけで終わらず、メッセージ性もきちんとした形で伝えられます(肝心なのは許すこと)。『プリズナーズ』の時も、風呂敷たたむの上手いなあと思いましたが、今回も改めて実感しました。
<印象的なシーン>
プールの使い方が絶妙です。出生の秘密を知った双子の姉弟が、プールで体を小さく丸めて潜っているシーンとか(生前の胎児としてのモチーフ)、一心不乱に泳ぐシーンとか(必死で運命に逆らおうとしている姿のモチーフ)。演出だけでなく、「母親がなぜプールで自我を崩壊したのか」最後のラストシーンで「なるほど」とうならされました。「プール」という柱を選んだのはすごいです。
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